盗塁阻止を構成する要素に関する研究

先日Fangraphsに「The Overrated Value of Catcher’s Throwing Arms」
http://www.fangraphs.com/blogs/the-overrated-value-of-catchers-throwing-arms/
という盗塁阻止についての論文が掲載され、
捕手の肩の強さは盗塁阻止においてあまり重要ではないのではないかという主旨の研究が
紹介されました。

その内容についてDELTAのアナリストである蛭川氏も
ブログ(http://bbalone.blog119.fc2.com/blog-entry-561.html)で、
盗塁阻止において捕手の肩の強さが決定的と捉える現在の状況を
再考する良い機会と言及しています。


この記事では、捕手のスローイングに要する時間と盗塁阻止にはほぼ相関はなく、
盗塁の成否に影響が大きいのは投手が使う時間で、
中でも投手のクイックの速さであるという主張がなされています。

今回はNPBにおいても同じようなことが言えるのか、
2013年のデータを計測し検証しました。


1.盗塁データの計測と影響

今回は盗塁阻止への影響を明確にするため、走者状況を一塁にしぼり、
ディレイドスチールや投球がワンバウンドになる隙に次の塁を狙う盗塁企図、
牽制の際にスタートを切ったものなどを除外しました。

また次の6つのポイント全てが測定できなかったもの(映像抜けなども含め)も除いています。
時間を測定した6つのポイントです。

‥蠎螢札奪肇櫂献轡腑鵑らの初動
投手のリリース
J畆衒甬
な畆螢螢蝓璽
テ麥櫂戞璽好バーの野手捕球
μ郤蠅走者をタッチした瞬間

前述の研究に加え、い鉢Δ了間を測定しています。
Δ鯊定した狙いは、蛭川氏がブログで留意点としてあげていた
捕手の送球の正確さを測るためです。

二塁手、または遊撃手が素早くタッチできるところに投げる制球力も
捕手の能力の一つであろうという考えがベースになっています。

そのような能力を計測するデータのため、悠々アウトのタイミングで、
既に送球が届き、走者が二塁に到達するまでタッチを待たねばならないケースは、
タッチの時間ではなく、タッチするゾーンにグラブを持っていった瞬間を記録しています。


この6つのポイントで

 銑◆‥蠎蠅離イックモーションの速さ
◆銑 投手のボールの速さ
〜ぁ(畆蠅諒瓩辰討らの速さ
ぁ銑ァ(畆蠅離棔璽襪梁さ
ァ銑Α(畆蠅料球の正確性

を測定することを想定しています。



投手タイムと捕手タイムはそれぞれが責任をもてる範囲を表します。
二塁タッチは捕球側の技術も関係しているかもしれませんが、
今回は捕手のみの能力と考えました。

使用した映像は2013年NPB公式戦からで、以上の条件に当てはまった盗塁、盗塁死、
それぞれ200件をフレーム単位で測定しました。映像は30fps(1秒当たり30コマ)です。

まず前述の研究においてほとんど影響を持たないとされた
捕手タイムと盗塁阻止率の関係です。

今回の計測では二塁タッチの時間も含んでいるため、
捕手タイムは捕手が捕球してから二塁で走者がタッチされるまでの時間となります。


○捕手タイム





相関係数 -0.705

前述の研究とは異なり、高い相関を示しました。
捕手が使う時間を短縮することで盗塁阻止率を上げることができるといって
良い数字といえるでしょう。
 

次に投手タイムを見てみます。


○投手タイム





相関係数 -0.959

投手タイムは前述の研究通り高い相関を示し、
綺麗な右肩下がりのグラフになりました。
 
投手タイムと捕手タイムを比べると、前述の研究ほどの差はないものの、
相関係数は投手タイムのほうが大きな数字になっています。

投手のボールを捕球するまでに時限的な制約がある捕手は、
盗塁阻止について投手よりもコントロールできる幅が小さいと考えられます。


2.盗塁阻止に影響を与える要素

次に投手タイム、捕手タイムのそれぞれの中身に触れていきます。
投手・捕手それぞれの要素が、どれだけ盗塁阻止との関係があるのでしょうか。



まず投手タイムからです。
前述の研究では、クイックの速さとボールの速さの2つに分けていましたが、
特にクイックの速さが盗塁阻止に大きな影響があると考えられていました。


○クイックの速さ





相関係数 -0.965


○投手のボールの速さ





相関係数 0.185

投手のクイックの速さが盗塁阻止率に影響があり、
投手のコントロールできる部分の源泉となることが分かります。

一方で、ボールの速さはほとんど関係しないという結果になっています。
投手が投じてから捕球までに、(球種などによる)大きな違いが生まれにくいのは
理解できるかと思います。


次に捕手タイムの内訳を見ていきます。



盗塁阻止率との関係を時系列で示していきます。



○捕手の捕ってからの速さ





相関係数 0.051


○捕手のボールの速さ





相関係数 -0.641


○捕手の送球の正確性





相関係数 -0.890


捕ってからの速さにほとんど相関はありませんでしたが、
捕手のボールの速さ、捕手の送球の正確性ともに高い相関を示しました。

前述のアメリカでのリポートでは、
捕手の肩は盗塁阻止にほとんど影響を与えないというものでしたから、
捕手のボールの速さが高い相関を示すというのは意外でした。
これがNPBとMLBの差なのか理由はわかりませんが、興味深い結果です。

また新しく測った捕手の送球の正確性は高い相関を示しました。
この結果から盗塁阻止には、二塁ベースカバーの選手がタッチできるところに投げられる
大雑把な制球力(投手でいうところのコントロール)に加え、
走者にタッチしやすいところに投げる細かい制球力(投手でいうところのコマンド)も
必要だということが分かります。



○全体の時間



計測した全ての要素全体の時間ではどのような関係になるのでしょうか。





相関係数 -0.968

当たり前かもしれませんが、全ての中で最も高い相関を示しました。
今までのものをまとめると、



このような結果になりました。

色のついていないミクロな部分では、やはりクイックの速さが与える影響力は絶大です。
クイックの時間が1.3秒に近づくと、残りの要素をどれだけ素早く行おうとも、
その時点で盗塁阻止は非常に難しくなります。

クイックを速くするために肝心の投球が疎かになってはいけませんが、
最低限1.3秒という数字は基準として持っておいてもいいかもしれません。

余談ですが、2014年の試合でタイムを測ってみたところ、
楽天の松井裕樹投手が許した3つの盗塁はいずれも1.3秒以上のタイムでした。

松井裕樹投手は独特なフォームのため、
クイックを速めようとすることが投球の根本を揺るがす恐れはありますが、
最低限1.3秒以内に収められるよう改善が必要かもしれません。
 

まとめ

前述の研究では、捕手のスローイングはほとんど盗塁阻止に影響を与えられないとの論調でしたが、
今回はそう簡単に言い切れるものではないという結果になっています。

投手ほどの影響はないものの、新たに測定した捕手の送球の正確性を含め、
捕手が担当する時間を短縮することで盗塁阻止割合は高められます。
もちろん、その中には肩の強さも含まれています。

総合指標のWARでは全野手の中で捕手の守備負担が最も大きいものと考えられており、
ポジション補正でも大きなプラスを受けます。

なぜ守備負担が大きいと考えられているかというと、
他のポジションに比べ求められる能力が非常に多いからです。

キャッチング、リード、投手とのコミュニケーション能力、肩の強さ、フットワーク、
今回計測した二塁送球の正確性など、言い出せばキリがありません。

その中で肩の重要性が従来考えられているよりも低いとなれば、
捕手を担うためのハードルが下がり、捕手起用の選択肢が広がる可能性があります。
また、求められる能力の中で何を優先するべきか再考するうえで重要な示唆をもたらします。

今回の研究は走者に関しては完全にノータッチですし、
盗塁阻止を構成する要素をすべて明確にできたわけではありません。

ただ、普段我々は何が盗塁を阻止させているのかをぼんやりとしか意識できていません。
テレビ中継で盗塁を許したあとに捕手の顔がアップで捉えられるのは、
一般的に盗塁の責任が誰にあると考えられているかを示しているように思います。

盗塁阻止は要因が複合的に重なり、明確に誰に責任があると言うことはできません。
今回の研究が、盗塁阻止がどのようなバランスで成り立っているかを意識し、
考える機会になることを願います。
(South)

参考文献
The Overrated Value of Catcher’s Throwing Arms(Fangraphs)
http://www.fangraphs.com/blogs/the-overrated-value-of-catchers-throwing-arms/

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